毎日新聞2007年2月26日夕刊 「憂楽帳」 より
毎日新聞2007年3月26日夕刊「憂楽帳」にS60年卒OBの山本修司氏が「指揮者」というタイトルでコラムを書かれましたのでご紹介いたします。(転載に当たりましては、山本氏の了解をいただいております。) |
「魔法の棒を持つ」といわれた合唱指揮者がいた。昨年3月に74歳で亡くなった北村協一さん。歌う側は、曲の表現に必要な技術や情感を無意識のうちに引き出され、美しく奥深い音が生まれる。
その薫陶を受けた関西学院、慶応、上智など大学トップクラスの合唱団やOBらが24日、東京で追悼演奏会を開いた。その数は14団体1000人以上。この中には多くの弟子たちも含まれている。
北村さんは、東京・五反田の自宅マンションで、学生に指揮法を教えていた。
居間のドアが鏡で、生徒はそこに自らを映しながら、指導を受ける。「そんな振り方では求める音は絶対出ない」。鋭く、短い言葉は怒声以上に厳しい。
「指揮者は視覚でとらえられている。それを忘れるな」とも強調していた。鏡の中に自分を冷徹に見つめ、求める音を得るための振りを探る。流麗さで知られた北村さんの指揮は機能美であり、その言葉はさまざまな指導者にあてはまるリーダー論でもあった。
日本のリーダーが「裸の王様」と言われている。鏡の中の自分を見つめたらいい。 【山本修司】